台湾一周のんべんだらり歩行

台湾を歩いて一周(環島)する日記

【台湾徒歩一周】環島1日目 台北〜新北

台北西門町の高層ビルに入ったゲストハウスを出る。
朝の8時過ぎ。常に若者でごった返している西門町も、午前中はまだ落ち着いていた。
歩行者天国になった繁華街の所々で、朝食の店だけに人が集中し、店の入り口からは活気といい匂いが溢れだしている。
店員と客の大声でのやり取りが通りまで響き、出勤前の若者がビニール袋を片手に忙しなく店を飛び出して行く。それを横目に常連らしいおじさんはゆっくりと粥を口に運ぶ。野良犬がフラフラと店内を歩き回り、物欲しそうな顔で客を見上げている。
台湾らしい台湾が目の前にある。
4年振りだろうか、久し振りにやって来た台湾は、相変わらず朝からけたたましくて嬉しくなる。
台湾の首都台北、近代的な大都市にも関わらず雑多でローカルな感じが、日本人には堪らない。
環島の出発地点はMRT(捷運)松山駅の環島1号線0㎞ポストにしようと決めてあったので、MRT北門駅へ向かい歩き始める。
台湾で「環島」というと、自転車での一周がほとんどだ。そのために整備されたのが環島1号線で、約1000㎞のサイクリングロードが台湾島の外周をぐるっと一周している。
今回の環島では、ほとんどルートの計画を立てていなかったので、とりあえずは環島1号線に沿って歩いて行けばいいやと思っていた。
北門駅の入り口手前の片側3車線の大通りで信号待ちをしていると、左から右へアスファルトを覆い尽くすほどの二輪車が流れていく。中国の歴史映画の戦闘シーンのように、土埃を上げて迫ってくるような迫力とエネルギーがある。
北門駅からMRTに乗り松山駅に向かう。朝の通勤時間と重なってしまい、電車の中は鮨詰め状態だった。ヤモリのようにドアに張り付き、無心で到着を待つ。人が多すぎて、酸素が足りなくなってしまうんじゃないかと思う。大都会東京はもっと凄いんだろうか。自分の郷里の電車は一両に数人しか乗っていないのに。
松山駅はなかなかの大きさだった。台北駅と比べたらまだ意地悪じゃないが、それでも複雑に入り組んでいる。構内に入るとすぐに方向感覚を失う。
0キロポストを探して駅の地下を右往左往する、ザックを背負った短パンの中年。その異様な光景があまりにも哀愁を誘うのか、地下の一角にある薬局のお姉さんが、見かねて声をかけてくれた。そして目的地の出口まで連れていってくれる。
ようやく外の世界だ。
地下を出るとすぐ目の前に0キロポストがあった。
スタート地点を目の前に、ようやく実感がわいてくる。
もうすぐ徒歩環島が始まる。
都会的なサラリーマンやOLが颯爽と通り過ぎていく。
そこに呆然と佇む場違いな自分。
なんだか居たたまれない気持ちになる。
さっさとこの場から立ち去りたいが、記念すべきスタートの瞬間を撮影しないわけにはいかない。
こんな時こそ恥ずかしがっていてはいけないと自分に言い聞かせ、0キロポスト前でジャンプした瞬間を撮影することにする。
三脚で携帯を地面に固定する。
タイマーを10秒にセットし自撮りを試みる。
数回挑戦するが全くタイミングが合わない。
ジャンプしては携帯に駆け寄る異様な行動を繰り返す、ザックに短パンの中年。
通行人はチラ見して行くが、目を合わせないように通りすぎて行く。
さすがに恥ずかしい。
変なプレッシャーに嫌な汗が溢れ出し、歩く前からTシャツはびちゃびちゃになっていた。
このままではスタート地点で心が折れてしまうと思い、誰かに飛び上がった瞬間を撮ってもらうことにする。タイマーじゃなければうまく撮れるだろう。
辺りを見回すと、清掃のオジサンが箒を手にこちらへ歩いてくる。
駆け寄り撮影をお願いすると、快く協力してくれた

これでやっとスタートできるとほっとしたのも束の間、何度やってもジャンプしているところが撮れない。
携帯を見つめ首を傾げるオジサン。

「もう一回!」

オジサンの掛け声で四度目のジャンプをする。着地してすぐ、またオジサンが叫ぶ。

「もう一回!」

そのまま五回目に突入しそうだったので慌ててオジサンの元に駆け寄る。
とにかく撮れてればなんでもいいと思い、連写の仕方を教える。

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どうにか無事にジャンプしている写真も撮れたので(切れてるけど)、おじさんとツーショットを撮らせて頂きようやく出発することができる。

「イテラシャイ~」

オジサンに日本語で見送ってもらい、興奮気味に歩きだす。
遂に始まった!
徒歩環島!
そう、始まったんだ。
始まったのはいいけれど、当たり前と言えば当たり前だが、歩き出してもなにも起こらない。
普通に台北の交通量の多い大きな通りを、一人で歩いてるだけだ。
仕方ないので三脚を使い、歩いてるところを自撮りする。

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自撮りしてみると、その面倒臭さに気づく。
カメラをセットしては戻り、シャッターのタイミングに合わせて歩きだす。
撮ったを写真を確認して、うまくいかなければまたやり直す。
そんなことをしていると、消費した体力の割りに全然進まない。
ただ初日ということもあってか、何事も起こらないのに妙にテンションが高く、自撮りで遊びながらひたすら歩き続ける。
昼前、いつの間にか台北の市街地を抜けていた。
迪化街を抜けた先からは、淡水川沿いのサイクリングロードへ入っていく。
川沿いは整備され、洒落た屋台が数件並んでいたが営業していない。
この先は歩きやすそうな道が続いているように見えるが、人通りは少ない。時折ランニングしている人が通り過ぎていく。

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遂に一つ目の補給駅に到着。
店の前にはレンタサイクルが並び、コンテナを利用した店内には飲料も売っているけれど、店の規模はとても小さい。
店内にはお兄さんが一人。
休憩がてら世間話をする。
久々に使う下手くそなオリジナル中国語は、相変わらず下手くそだが、意外と忘れてなくて安心する。
文法も発音も目茶苦茶でも、意思の疎通ができるのはやっぱり楽しい。
お兄さんにこの先の道の情報を教えてもらい、また自撮りをしながら歩きだす。
川沿いは遊歩道になっているので歩きやすいが、日陰がないので暑さが堪える。
14時を過ぎた。ゲストハウスの簡単な朝飯以降、水しか口にしていないので腹が減って仕方がないが、川沿いには食べ物屋がない。
補給駅のお兄さんの説明では、淡水川沿いはなにもないけれど、淡水川と平行して走る高速道路を跨いだらだいたい街があり、食べ物屋がある。龍山寺の辺りに出たら賑やかだよと言っていた。
そう、たった数百メートル歩いたら街へ抜けることができるのに、暑さにやられた体ではその数百メートルの往復が億劫になっていた。
次の補給駅に着けばきっと簡単な食べ物が売ってるはず。そう自分に言い聞かせて歩く。

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その間も撮影ポイントを見つけてしまい、渋々自撮りをする。余計に進まない。
ようやく高架下に二つ目の補給駅が見えてくる。
食べ物が売ってることを願いつつ、期待に胸を膨らませ売店を覗いてみると、冷蔵庫には一面のポカリスエット
店員のお兄さんに聞いてみるが食べ物は売ってないと言う。
仕方ないのでポカリスエットを買いその場で一気飲みした。何でもいいのでカロリーと水分を摂らなければ。

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お兄さんにこの先のことを聞くと、公共の交通機関を利用した場合について教えてくれる。

「バスじゃなくて歩きで行かないといけないんです。今日が徒歩環島の初日で……」

お兄さんが大きく目を見開き、両手を口に当て息を飲む。

「スッ、スゴイネ~!」

片言の日本語で驚いてくれる。ここのお兄さんはなんだか仕草が可愛らしい。
その後、携帯で調べこの先のことを調べて教えてくれる。

「ガンバッテ~」

去り際にまた日本語で送り出してもらった。台湾の日本語普及率は本当に凄い。
街中で見かける語学塾の看板には、「英日」と書かれ英語に加え日本語を教えているところも多いし、書店の語学コーナーには日本語の参考書がズラっと並んでいる。
これ以降、写真が激減してしまった。
補給駅のお兄さんに三峡までの距離を教えてもらうと、まだ13㎞以上あると言っていた。約3時間だ。休みなく歩けば日が沈む前には着けるが、宿が決まっていないのでなるべく時間に余裕を持って着きたい。ただただ黙々と歩く。
2時間半ほど歩き続けると、環島1号線沿いの街が徐々に大きくなり始める。
ようやく見え始めたまとまった建物に安心し、どこか泊まれそうな場所はないか、看板や建物を物色しながら歩みを進める。
大通りから脇道に逸れた先に、ボロボロの看板が目に留まる。

「青青花園汽車旅館」

「汽車旅館」直訳すると「車ホテル」だ。
いったい何を指すのかよくわからないので、隣の小学校の校門の前に立つ男性に聞いてみる。

「車で直接入ることか出来るホテルのことだよ」

「それって普通に泊まれるんですか?値段は安いですか?」

「うーん、僕もあんまりよくわからないなあ」

とりあえず普通に泊まれることはわかったので、値段を聞きに入ってみることにする。
なかなかボロい外観に、安さへの期待は膨らむ。しかしなんと一晩1500元。普通に高い。意気消沈しトボトボと引き返す。
さっき汽車旅館について教えてくれた男性が、まだ同じところに立っているので、近くに安い宿がないか聞いてみる。男性は申し訳なさそうにわからないと言う。
お礼を言ってまた宿探しを開始する。
「環島1号線」のルートから外れるのはなるべく避けたいけれど、泊まる場所が見つからないので渋々鶯歌駅の方角へ向かう。最悪駅の近くにはなにかしら宿泊施設があるだろうし、ブッキングドットコムにもドミトリーが載っている。
疲労と空腹を感じながら遅いペースで進んでいると、交差点で車が道路脇に横付けされ、車の中から声をかけられる。よく見ると運転席にいるのは先程の校門前で出会った男性だった。
学校に子供を迎えに来た後、車で追いかけて来てくれたと言う。
そして車から降り僕がまだ宿を見つけてないと知ると、近くに安宿がないかスマホで探し、電話までしてくれる、が電話が繋がらない。
近くにいたおばさんや巡回中のお巡りさんも巻き込んで、ああでもないこうでもないと安宿について話しているが目星がつかず、最終的にはバックパッカー宿まで車で乗せていってもらえることになった。
初日から車を使うのはどうかと自分でも思ったが、引き返したり道を逸れたり、距離が遠くなるぶんにはまあいいかと思い乗り込む。
後部座席には11歳と9歳の兄弟が載っていた。目がクリクリで可愛い。助手席には荷物が置いてあり乗れないので、子供二人と一緒に後部座席に乗り込む。物怖じしない積極的なお兄ちゃんに、恥ずかしがりやな弟。楽しいお喋りの時間。中国語を下手くそなりに喋れてよかったと感じる。

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宿が全然見つからず同じ道を何往復もするというトラブルはあったものの、無事に宿の前で下車。お別れ前に四人で記念撮影。



チェックインしてすぐご飯を食べに出かけることにする。昼飯を食べずに歩いていたので、とにかく空腹だった。
宿にはマレーシアの華人の女の子が働いている。台湾に住む弟に会いに来たついでに、住み込みで短期のアルバイトをしているらしい。
僕がよく見るYouTubeに「ryuTV 」という、マレーシア出身の華人リュウ君と、日本人のゆまちゃん夫婦の動画があるのだか、宿の女の子も見てると言って話が盛り上がる。マレーシアはどんな国なんだろう。もっとマレーシアについて話を聞きたかったが、空腹に負けて街へ向かう。
宿の子に何件かお薦めの店をピックアップしてもらったので、その中の一件へ。
美味しいと言っていた湯麺は売り切れだった。店のオジサンの勧めで乾麺にする。
味も美味しいし空腹だったけれど、以外と量を食べれない。

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食べ終えてお礼を言い店を出る。
腹も満たされご機嫌で歩いていたが、大通りに差し掛かったところで金を払っていないことに気づき大急ぎで店に駆け戻りペコペコと謝る。
店のおじさんはそんな食い逃げ日本人にも優しく、もう閉店だからと冷たい紅茶をただで持たせてくれる。

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街で出会った可愛いおばちゃん。
歩きながら自然と世間話が始まる。
台湾の人の距離感は、日本人に比べ近い。
それが新鮮で、とても心地いい。

こうして、慌ただしくも楽しい環島一日目が終了した。