台湾一周のんべんだらり歩行

台湾を歩いて一周(環島)する日記

【台湾徒歩環島】29日目 成功鎮都歴部落~長濱郷竹湖村

台湾でテントを張るのは初めてなので知らなかったが、蚊が予想以上に多すぎた。日本では考えられない数がテント内に侵入してくる。
ダブルウォールのテントなら二層になっているので、換気をしながらも蚊の侵入も防げるが、僕が持っていったのはシェルターなので一層、換気か蚊の二つに一つ。
僕は入り口を完全に閉じ、換気はベンチレーターのみにし、暑さを耐えることにしたわけだが、ベンチレーターから容赦なく侵入してくる。
暗闇の中、煩わしい蚊の羽音にヘッドライトを付けると、元気に飛び回る蚊の影が浮かび上がる。
その数ざっと十。十は盛りすぎだろうと言われそうだが、本当にいる。確かにいる。身体中ボコボコで痒くて仕方ない。
夜中に何度も起きては蚊との熾烈な格闘をなんラウンドも繰り返し、そのまま朝を迎えた。
完全に寝不足で、寝る前より衰弱して一日が始まった。
朝五時前には活動を開始し、テントの撤収にかかる。
荷造りを終え宿に入り朝食のパンを食べていると、ウェイチンとオーナーの二人も起きてリビングにやってくる。
ウェイチンは準備でき次第追い付いてくると言っているので、僕はオーナーにお礼を言い先に出発することに。



早起きして出発するのは、時速四キロの歩みには単純に時間が必要なこともあるが、朝だけはまだ涼しいのも救いだ。
この日も暑い一日だった。
四月の終わり。日本ならまだまだ肌寒い日もあるのに、台湾はすでに日本の真夏と変わらない。
この頃になると肌はすでに真っ黒。東南アジアの人、もしくは国籍不明の人に見られる。
花東公路海線のキツイところの一つは、影が少ないこともあるだろう。
建物もなく道沿いに日を遮るほどの大きな木がほとんどないので、景色はどこまでも開けている。照りつける太陽は容赦ない。
歩き始めて二時間程経った頃、和平里で、ウェイチンからすで追い付いてきていると連絡があるけれど、お互いに姿が見えない。
どうやらウェイチンは海岸ギリギリを走るサイクリングロードを進んで、すでに僕を追い越して行ってしまったみたいだった。
その辺をブラブラしながら待っていると言ってくれるので、休憩を挟まずに先を急ぐ。
幸いそれほど離されていなかったらしく、程なくして追い付くことができた。
また二人で並走して歩く。
ウェイチンは最近環島に興味を持ったらしく、色々な人のブログを読んだり、動画を見たりして刺激を受けているらしい。

「有些事現在不做, 一輩子都不會做了」

(今やらなければ、一生できないことがある)

これは台湾自転車環島の火付け役となった映画『練習曲』のキャッチコピーだが、僕はこの映画を見たことがない。
ウェイチンも見たことがないらしいが、数年前台湾はこの言葉に触発された人たちで、自転車環島ブームが沸き起こったと以前話していた。
その話をした時、僕らはその言葉に対して「そんなことないと思うけどね」と笑い飛ばしていた。
けれどウェイチンは、今もし本当に自分が徒歩での環島を実現しようと考えた時、今現在の現実的なハードルの高さ、かといって定年退職した後にと思っても、年老いた時には体力的にも厳しいことを考えていると、『今やらなければ、一生できないことがある』と言う言葉は、多くの事柄には当てはまらないけれど、それでもそんな気持ちで行動して、困難を乗り越えてようやくできることもあるんじゃないかと、真面目に話していた。
だから僕の環島に、たくさんの楽しい体験と、たくさんの綺麗な思い出が残って欲しいと、言ってくれた。
そんなふうに言ってもらえること自体が、僕にとっては最高の思い出になる。そう伝えたいのだけれど、それは気恥ずかしさのせいなのか、自分の中国語の下手さが原因なのかはわからないが、上手く言葉にできなかった。

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記念撮影をして、ウェイチンは元来た道を引き返していく。けっきょく山線を周回したら帰りの電車には間に合わないので、海線を引き返すことに決めたらしい。
この後ウェイチンは自転車のタイヤがパンクして、仕事中の原住民の人の車に乗せてもらい、ギリギリで台東発の電車に駆け込んだらしい。
僕はそれを聞き、「これが台湾人の人情味だやっとわかったか!」と自慢をした。



10時、成功市内に入る。
予想よりずっと大きな街で驚く。こんな賑やかな街で一泊したかったと悔やむ。予定をしっかり立てていないので仕方ないが、寂れた場所ばかり経由している気がしてくる。



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まだ早いが昼飯にする。海線は食べれるときに食べとかないと、次いつ食事の機会がやってくるかわからない。
三種の部位が入った牛肉麺。よくわからないビラビラの内臓が入っていて美味い。



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有名な観光地、三仙台を無視して突き進む。
今日も絶景。天気も良い。ただ海に飽きた。
三和の宿の女将さんが言っていたキラキラ輝く五色の海は、こんな感じだろうか。朦朧とする頭でぼんやりと思う。



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対向車線をやってきたチャリダーの外国人。自分も外国人だか。
手を振るとこちらへやって来る。
フランスのおじさん、オリ。もう七年も旅をしている生粋のクレイジーピーポーで、さっきそこでピロウを拾ったと喜んでいる。自転車のかカゴにはボロボロのエアー注入式枕が入っているのを見て、思わず吹き出す。陽気で親切でブッ飛んでいる。
今花連手前の山奥でヒッピーフェスティバルが開催されていて、そこはテントなら無料でずっと滞在できると熱心に場所の説明をしてくれる。
「yoshiなら大歓迎さ!」みたいなことを言ってくれるが、ピッピーの定義を知らないがたぶん僕はヒッピーではないと思う。



午後五時半、本日の目的地の宿に到着。
到着前から嫌な予感はひしひしと感じていたが、予感的中、周辺には一切なにもない。
たた宿の雰囲気は凄く良い。まるで自分の家のようは感じがする。



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おばちゃんに近くに食べ物屋ないけどどうしようと言うと、ここで食べたらいいと言ってくれる。
ここのおばちゃんは全然気を使ってないような感物言いをするけど、実はさりげなく気に駆けてくれている感じが凄く心地良い。



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食後はみんなで月を見に宿の目の前の海岸へ。
みんなは「月だ月だ!」と騒いでいたけれど、台湾で月は珍しいのだろうか。よくわからないが綺麗だったことは確かだ。
そして流れ星も見えた。
夜の海は、子供の頃の夏休みを思い出す。心地良いような、それでいてソワソワと落ち着かない自分が、とり憑かれたようにぼんやりと凝視して海を眺めてる。



この日は同室に若い男の子達四人がいた。四人はなんかの電波に関係する仕事で(説明してもらったがよくわからない)、明日は朝から電波の調査でこの近くの山に登るんだと言っていた。
個性的な四人組で、それぞれキャラがたっていて見ているだけで面白い。そのまま四人でスタンドバイミーの撮影ができそうだ。
この日の宿は、まるで学生の旅行にでも紛れ込んだような、青春の臭いがする。