台湾一周のんべんだらり歩行

台湾を歩いて一周(環島)する日記

【台湾徒歩環島】31日目 花蓮県豊浜郷~花蓮県水璉村

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またほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。
台湾の蚊の余りの手強さに呆然自失。
虫除けは水でも入ってるんじゃないかと思うほど、効果を発揮しなかった。
暗闇の中の蚊の猛攻、スプレーの内容量の半分以上を消費し防戦した。
肌の露出している部分には、ヒタヒタのビショビショになるくらいスプレーを吹きかけたが、その液体でテラテラと光輝く腕に、すぐさま蚊が何事もないかのように着陸した瞬間、自分の中のすべての戦意は消失した。
そして今日もまたボコボコになり、朝を迎える。



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どうせジッとしていても蚊の餌食になるだけなので、さっさとテントを撤収し、五時前には歩き出していた。
豐濱まで十四キロ、そこまで行けばコンビニがあるので、取りあえずの目標を豐濱村に定める。
食料も水も尽きかけている。暑さが酷くなる前に、そこまでは頑張らなければと自分に言い聞かせる。
早朝の港町は思いの外綺麗だ。時が止まったように静かで、でも時折犬が人間のいない道路を我が物顔で闊歩する。
こんなマジックアワーに街を歩けたので、蚊のやつを許してやるかという気にもなってくる。



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朝日が登り始めると、安心感より暑さに対する恐怖のが込み上げてくる。
台湾は冬でも暑いから、もっと涼しい時期に歩けばいいのにとたくさん忠告を受けたけど、本当にその通りかもしれない。



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道路脇の畑に、ところどころ向日葵が植えられている。まだ満開ではない。
たまに観光客が車から下りて撮影をしている姿を見かける。



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歩き出して四時間後、ようやく豐濱村に到着。
小ぢんまりとしているが最低限のものは一通り揃いそうな、川沿いにあるのんびりしたくなるような村だった。
さっそく待ちに待ったコンビニに駆け込む。冷房が煮えたぎった体に染み渡る。
基本的にコンビニよりその辺にある普通の店のが好きだが、この冷房の誘惑には勝てない。
空腹を思う存分に満たし、冷えた炭酸を流し込む。至福の時。



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一度コンビニでだらけると、出発する気が失せてくる。
名残惜しい気持ちをどうにか振り切って、またあの単調な灼熱の道へ帰っていく。
自分のこれから歩く道が、全く見えないのと、どこまでも見えているのは、どっちが辛いだろう。



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次に新社村を通る。
村の入り口に噶瑪蘭文化展示中心という小さな建物があり、水が貰えないかと建物に入ると、人の良さそうなお兄さんが一人。
ここは少数民族の中でも少数の、クバラン族が暮らす村だと言う。
民芸品の展示や文化の紹介がされていて、お兄さんにクバラン族についての講義を一通りしてもらう。
僕はこういう話が大好きなので、なかなか熱心な受講生だったと思う。
クバラン族にはクバラン族の言葉があるらしいが、喋れる人はどんどん少なくなってきているらしい。
お兄さん自身クバラン族ではあるが、クバラン族語は少ししか話せないと言っていた。
どんな音がするのか気になったので、お兄さんに少し話して聞かせてとねだるが、恥ずかしいのか話してくれない。



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お兄さんと別れた後、小さな商店の冷蔵庫の中に冷えたジュースがあるのを見つけ足が自動的にそちらへ向かう。
暑いので店内の椅子に座りジュースを飲んでいると、お爺さんとお婆さんが何か話している。全く聞き取れない。

「今話してるのって、噶瑪蘭語!?」

もしやと思い、思わず大声で聞いてしまった。
お爺さんはそうだそうだと肯定すると、「日本人か?」と日本語で聞いてくる。
お爺さんが五歳のときに日本が敗戦し、日本語教育は受けていないが、両親が日本語を話しているのを聞いて育ったから、少し話せると言う。
終戦前の今の日本人が使わない日本語がある。
日本統治時代を肯定する気はないし、絶対にあってはいけないことだと思うけれど、どうしてもその自分の知らない時代の日本語に、不思議な懐かしさと親しみを感じてしまう。
陽気に日本語を使ってくれるお爺さんを見ていると、ありがたい気持ちが込み上げてくる。



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悩んだ末に海線にしたけれど、海線でよかった。
確かに似たような景色は続くし、不便ではあるけれど、北や西や南とは全然違う台湾が、海線でしか出会えない台湾がある。
山線歩いてないので、偉そうなことは言えないが。



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昼過ぎ、飛び魚とビールでエネルギー補給。
今は飛び魚が旬でこの辺りではよく獲れるらしい。
伊勢海老も特産だが、今日は獲れなかったから無いのよと店の女性。



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今日の行程は然り気無く四十キロある。
しかも目指す水璉までは山越えをしなければならず、アップダウンの少ない海線にあって、かなりの標高差を登り降りしなければならない。
峠道には基本的になにもないことが多いので、下りきるまでひたすらあるかなければならないことがままある。
油断はできない。
汗だくになりながら坂を上っていると、自転車の人に追い抜かれる。

加油ー!」

いつものように声をかけると、

「あれ、日本人?」

と流暢な日本語が返ってくる。
なんだ日本の人だったのかと思い、こちらも日本語で話しかけると、日本人と見分けがつかない関西弁で、日本に住んでるけど中国人だと言う。
大学の時に留学して以来、すでに人生の半分くらい日本で過ごしていると言うけれど、あまりの発音の上手さに日本人と話しているように錯覚してしまう。
このおじさんは自慢する素振りもなく、当たり前かのように6日で環島すると言っているが、とんでもなくタフだ。
一日平均180キロ走っていて、今日で五日目と話しているが、これまであった誰よりもハイペースだ。
坂を上りきるまで二人で話をしながら歩いていたけれど、凄い人の臭いがプンプンする。
かなりのインテリでもあり、趣味だという登山と自転車は趣味の域を軽く越えている。
峠を上りきったところで自転車に股がり、下り坂にこぎ出して行く。
面白い話を聞かせてもらったうえに、最後にポカリスエットまで貰ってしまった。



水璉は峠を下りきったところにある。
この辺りでは比較的大きな街だと聞いていたので、期待に胸膨らませ坂を駆け下りる。
昨日は野宿で風呂に入っていない。お湯シャワーでサッパリしたかった。



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五時前に水璉に着くも、村を一目見た瞬間から嫌な予感が頭を駆け巡る。
村の面積は確かに広いのに、寂れている。
なんというか、ゴーストタウンに迷い混んだような。
メイン通りを歩いても宿は愚か店すらない。
裏通りも回るが当然のように何もなく、お年寄りばかりが目に止まる。
歩き回っているうちに日没が近づいて来てしまった。
この先はしばらく何もない道が続く。
どうするか悩んだ挙げ句、小学校へ行ってみることにする。
時間が遅いからか、小学校にはすでに誰もいなかった。

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勝手にテントを張るのは気が引けたが、なんの当てもない以上他に選択肢がない。
暗闇の中遊具の片隅に設営する。
幸いなことに食べ物は以前もらったカップラーメンが鞄に入っていたし、廊下に給湯器が設置されていたので、どうにか夕飯にはありつくことができた。
二日間シャワーを浴びていないので、タオルでしっかり体を拭き寝袋に入る。
明日は必ず花連市内に入ると心に決め眠りに着く。