台湾一周のんべんだらり歩行

台湾を歩いて一周(環島)する日記

【台湾徒歩環島】28日目 東河郷都蘭村~成功鎮都歴部落

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朝から自転車と共に進む。
このトライアスロンの大会は、自転車180キロ、マラソン42キロ、水泳3.8キロあるらしい。
どれか一種類でも大変なのに、それが三種類もあるんだから、やる人はドMだと思う。
それにしてもカッコイイ。



歩き始めてすぐ足の小指の豆が痛くなる。
靴で圧迫される痛みでびっこをひきながら歩くが、遂に限界になりサンダルに履き替える。
サンダルにするとだいぶ痛みがマシになったので、とりあえずはサンダルで歩くことにする。靴をザックに詰めたのでパンパン。



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警備のおじさんに歩いてるのかと聞かれ、徒歩で環島していると言うと『舒跑』の1.5リットルをもらう。
日本人に昔から馴染みのあるスポーツ飲料が、ポカリスエットアクエリアスであるように、台湾人にとってはこれが子供の頃から親しんできた定番スポーツ飲料らしい。
僕は歩いてるだけなのでトライアスロンの人に悪いような気もするが、ありがたく頂く。



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残念なことに、歩き始めて早々トライアスロンのみんなは折り返して行ってしまった。
仲間の輪からはぐれてしまったような、寂しい気分になる。



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さっきまでの活気とは正反対の、誰も通らない寂しい道をしばらく一人で歩いていると、原付のおじさんに声をかけられる。
徒歩環島に興味があるので、歩いている人を見かけると声をかけるらしい。
そして商店で買ったばかりの冷たい水を頂く。
今日はたくさん水分をもらいとてもありがたいが、鞄が次第に重くなっていく。



昼時になり腹が減ってきたが、なかなか食事ができるような場所がない。
ようやく小さな町を通りかかるが、外国人サーファーを狙ったような洒落た店が二軒。メニューを見ると値段が高い。諦めて先へ進む。
歩き出してすぐ道沿いに肉まん専門店が。肉まんと豆乳にありつくことができた。
食べ終わる頃、ウェイチンからLINEに連絡が入る。

「今どこにいる?」

昨日の夜、ウェイチンから連絡があった。
二連休を使い東部一周をするから、様子を見に来ると言っていたのだが、どうやら追い付いてきたらしい。
場所を説明すると、ほどなく自転車に乗って近づいてくる見知った人影が。

『自転車!?』

東部一周と言うから、僕はてっきりバイクで来るものだとばかり思っていた。台東でレンタルバイクを借りて。
花東公路は片道170㎞ある。自転車ではかなり厳しい。
間に合うのだろうかと思って聞いたら、途中の30号線玉長公路から山線へ向かうと言う。それならまあ大丈夫そうだ。
ウェイチンはコンビニで休んで行くというので、またあとでと歩き始める。そう、何もないと思って肉まんの店に入ったのに、町から大通りに出ると、すぐにセブンイレブンがあった。



昼飯も食べ快調に歩いていたが、当たり前だがすぐにウェイチンに追い付かれる。
それからは二人で歩きながら進んだ。
8対2の割合でウェイチンが喋っているが、たまに喋ると面白いように中国語を直される。普段みんなが上手い上手いとお世辞で褒めてくれて、調子に乗っていたので鉄槌が下った。
歩いているとたくさんの出会いがあるし、色々なことが起こるけれど、基本的にほとんどの時間は一人で黙々と歩いている。
誰かと歩くのは賑やかで楽しい。
もちろんそれが毎日なら、また違ってくるのかもしれないけれど。



今日は足が痛いのであまり距離を歩かないことにして、都歴にある派出所でテント泊をすることにしていた。
花東公路の海線は宿泊施設は少ないが、派出所等の公共施設で、無料でテント泊ができるようになっているところが数ヶ所あるらしい。
都歴の派出所はテント泊ができシャワーまで使えると聞いていたので、昨日からここに目星をつけていた。この先は成功まで街らしい街がない。
ウェイチンはテントを持っていないので、まだかなり距離があるが、30㎞ほど先の長濱まで行こうかなと言っている。
とりあえず僕は派出所に入りお巡りさんに声をかける。

「ニーハオ、ここでテント泊出来ると聞いたんですが」

「ない……」

「え……」

「もうない無くなった。外の看板見てみろ!!」

「は、はあ…」

虫の居所が悪かったのか、タダでテント泊しようとやってくる人間にうんざりしているのか、凄い剣幕で追い返されてしまった。
派出所を出てウェイチンに断られたことを伝え、二人で看板を見てみると、たしかに露営地の看板には斜線がしてある。
どうしたものかと二人で途方に暮れていると、「こんな時はいつもどうするの?」と聞かれる。
こんな時は、途方に暮れて歩いてるとなんとかなっていく、と言うと、じゃあ歩くかということに。



街を抜けてすぐ(街といっても凄く小さいが)、住宿、露営の看板をかかげた民宿が現れる。
小さな民宿だが外観が綺麗でまだ新しいことが見てとれる。
ちょっと値段は高そうだが、当てもないので取り合えず入ってみる。
入ると感じのいい女性が迎えてくれて、これまた感じのいいオーナーを呼んできてくれた。
値段を聞くとテント泊は600NTD 、僕はオーケーする。宿泊はいくらか忘れたが、ウェイチンはかなり値切って驚くほど安くなっていた。
こういう時に値段交渉の能力がゼロなのが悲しい。
僕の押しが弱すぎるのもあるが、全体的に女性のがこんな時強い気がする。
そんな僕を見かねたのか、なにも言っていないのにオーナーが値段をまけてくれる。ありがたい。

「民宿をして初めての日本人で、初めての徒歩環島だから。そのかわり、日本人から見て何か宿を改善するアドバイスがあれば教えてよ」

オーナー自身押しの弱そうな風貌で、どちらかというと同種な臭いがしないでもない。



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ついにテント登場。結露対策にコンクリートに設営したが、これで酷い目にあう。
今回は基本宿に泊まり、寝る場所が見つからない、もしくは値段が高過ぎる場合のみ使う予定だったので、最初からテントはいざというときだけ、使わないなら使わないでいいと思っていた。なのでマットは簡易的な驚くほど軽量で薄手の物を持ってきたのだが、コンクリートの硬さが骨に響いて全然眠れなかった。



夕飯はオーナーが教えてくれた町の食堂へウェイチンと向かう。この辺りで食事ができる場所は、そこ一軒のみだそうだ。
お腹を空かせて教えられた場所へ向かうも、見事に閉店していた。
仕方ないので商店でビールを買って宿へ帰る。宿のカップラーメンなら好きに食べていいよと言ってもらっていたので、思い思い好きなカップラーメンを選び乾杯。
他に宿泊客はいないので、四人でのんびり過ごす。
たまには歩く距離が短いのもいい。むしろ毎日このくらいの距離がいいくらいだ。
とは言え毎日ゆっくりしていると、どんどん予定から遅れてしまう。
翌日は早目に起床しようと早目に就寝。
歩き出してから、毎日早寝早起き。健全な生活リズム。

【台湾徒歩環島】27日目 三和~都蘭

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早朝、部屋で準備をしていると、ドアの網戸越しに物音を聞き付けた猫が、甘えた声でミァアミァア鳴きながら待機している。
この猫の賢いところは、こんなに甘え上手なのに、客室のドアが開いていても、決して中には入ってこない。




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出発の時も、坂まで見送りに来てくれる。でもちゃんと家の前まで。
因みにオーナー夫婦はここには住んでいない。猫がオーナーに代わり出迎えと見送りをしっかりしてくれる。凄い看板猫だ。




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朝飯を食べていると雨が降ってきてしまった。それほど強い雨ではないがカッパを来て出発。その後は降ったり止んだり、着たり脱いだりを繰り返す。




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台東へ向けて進んでいると、大量の看板が並んだ分岐にぶつかる。
看板で思い出したが、台湾では大きな看板のことを『看板 kan4ban3』と言うらしい。音にそのまま片仮名を当てると『カンバン』になる。僕が知らないだけかも知れないが、大陸中国ではたぶん使わない。これも恐らく日本語の名残りなんだと思う。
そしてこの大量の看板が花東公路、海線、山線の分かれ道になる。台湾東部の主要都市、花蓮と台東を結ぶ花東公路。約170キロ。外側を回る海線のが少し距離が長い。
海線は海岸部を、山線は山間部を花蓮まで真っ直ぐに貫いている長い二本の道。東部は西部と違い平地が少なく、街も少ない。ルートの選択は、ほぼこの二本のどちらかに絞られる。
歩く上での大きな違いは、山線は鉄道が走り、一定の間隔である程度の都市がある。補充や宿泊に便利。あと温泉もある。
海線は街が少なく、少数民族の部落が点在している。右手に太平洋を見て進む。
他の歩きメンバーはみんな山線を選んでいたし、自転車メンバーも僕が聞いた限りは山線を行くと言っていた。
徒歩環島の人に教えてもらった話では、海線は部落から部落までの距離が長く、20キロ~40キロの開きがある。宿泊施設も少ないからテントがいる。つまり一日40キロ歩けて、テントを持参していれば不便ではあるが問題ないということだ。
僕はけっきょく海線を進んだ。この分岐の時点でもまだ迷いはあった。一番の理由は単純に海はもう飽きていた。
なのになぜ海線にしたか。
前日、宿のおばちゃんとこの先のルートについて話をした時、僕が南部からずっと海を見てるからもう飽きたと言うと、おばちゃんはこの先の海は全く違うと言う。この先の海には五色の藍色がある。それが太陽光に照らされて輝く。それはそれは綺麗だと。
おばちゃんの言う『五色の藍色』に惹かれたのかは自分でもわからないが、決めかねているなら、この分岐で出会ったおばちゃんの言葉に任せるかという気になった。



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台東市内の端っこを掠めるように通り過ぎていく。時間があれば台東で二泊くらいしたかったが、先を急ぐ。



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街を抜けるとやたらと自転車に追い抜かれる。そして反対車線にも自転車の集団が。何事かと思っていたら、今日明日の二日間、海線の一部でトライアスロンの大会が開催されるらしい。
この日は一日、自転車と進むことになる。
僕は自転車をやらないし、スポーツを観戦するのが好きじゃない。人がスポーツをしてるのを見てても、面白くないからだ。
ただ真横を進んで行く姿は格好よかった。老若男女かなり幅広い年代が行き交う。みんな必死で、フラフラになりながらもペダルを踏み込む。
夕方五時頃になると、通過する自転車が極端に少なくなる。大半が目的地に到着して、遅れている選手なのだろうか。
自転車が通ると『加油!』と声をかける。反応する人もいれば、それどころじゃない人もいる。
反対車線の坂を上ってくる一台の自転車があった。60歳くらいだろうか、年配の男性が乗っていた。車体を左右に振りながらどうにか坂を上ってくる姿は、今にも最後の力を使い果たしてしまうんじゃないかと、みてるこちらが心配になるくらいだった。
大声で「加油!」と声をかけると、おじさんは一瞬こちらにしんどそうな、でも力強い笑みを見せる。それは僕に頷いたのか、おじさん自身なのかわからないが、一度大きく頷きギアを変え、さらにペダルを強く踏み込みスピードをあげる。
自転車カッコイイ。思わず自転車やりたくやるくらいカッコよかった。僕は道端で一人感動していた、




この時、足の豆が大変なことになっていて痛くて痛くて泣きそうだったが、トライアスロンの人たちを見てると、そんな弱音は吐いてられないというような、まるで自分までアスリートの一員と言わんばかりの心境だった。



そして夕方、都蘭のバックパッカーズに到着。足が痛すぎると思い靴を脱いでビックリ。痛すぎた理由がわかった。



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大変見苦しい写真で申し訳ないが、よく見ると爪が変な位置に付いていて浮き上がっているのがわかると思う。
うちの家系はなぜか足の小指の爪がゴミ屑のように小さいのだか、それが災いしたのか、豆に押し上げられた爪が抜けてしまっていた。
道理で痛いわけだ。



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夕飯は宿の子が勧めてくれたベトナム料理を食べる。ちょっと独特の味が絶妙に美味い。
食べ終わり勘定をしていると、どこかで見た顔がいると思ったら、昨日のスラムダンクの駅で出会ったカップルが。女の子は見覚えがあるが、男の子はフルフェイスのヘルメットをしていたので、素顔を始めてみる。爽やかなイケメンだった。
あんまりデートの邪魔をするのも悪いので、少し話をして退散する。



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コンビニでビールを買い、外の席で飲みながら、このでかい豆をどうしたものかと思案していると、宿の女の子が夕飯を食べにやって来る。
爪が取れてるんだと言うと、病院行った方がいいと言われるがそれは面倒だから嫌だ。
とりあえず宿に帰ったら救急箱と針を貸してもらえることになった。



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帰り道にいた犬。ホラー。



その夜、豆を潰し中の水を抜いた。豆対策は色々あるがいったい何が正解なのかわからない。取り敢えずこれ以上でかくなられたら靴がはけなくなるので、朝晩水を抜いていくことにする。

【台湾徒歩環島】26日目 尚武~三和

今日も早起き。夜明けと共に出発。今日中に台東まで行けたらいいのだけど、50㎞以上あるので諦めて目的地を手前にある三和にする。そこなら40㎞くらい。


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最近飛ばしている。なんでこんなに毎日休みなく長距離を歩き出したかというと、四十日で台北に着こうと思うと単純に間に合わないからだ。最南端を折り返した時点で大幅に遅れていた。僕と反対の時計回りで来ている歩き環島の二人にLINEで相談してみると、一日30㎞ペースだとやはり間に合わないと言う。二人は色々折衷案を考えて送ってくれるけど、かといって妥協して行きたいコースを変更するのも嫌なので、とにかく歩けるだけ歩いてみることにした。他の人は無理しないほうがいいと心配してくれるし、観光したり楽しんだほうがいいと言ってくれる。それは凄いわかる。本当にその通りだと沁々思う。40㎞あると到着まで食事や休憩込みで12時間。朝五時に起きて着くのが夕方五時半くらい。着いてから手洗いで洗濯、夕飯、シャワー、寝る。一日終わり。それのどこが楽しいのかと聞かれると答えに困る。でもこれも悪くない。ギリギリできるかできないかくらいが面白い気もする。というわけで、最近頑張り始めたというわけだ。





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朝飯にセブンイレブンのおでん。どこのセブンもおでんの隣に春雨とインスタント麺が置いてある。これを自分で袋から出しおでんに入れてレジへ持っていく。この春雨がもちもちで美味い。あとカニかまも謎のプチプチが入ってて美味い。





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今日のルートは最初から最後までほぼ海岸沿いを歩く。絶景ではある。ただ飽きた。南部以降、常に右手に海。遠くなったり近くなったりはするものの、いつもそこにある。
この先、台東から花連まで続く花東公路には二通りある。山間部を行く山線、海岸部を行く海線。僕は海線を行こうと決めていたけど、海は十分過ぎるほど眺めたので、本気でどちらへ行くか悩んでいた。明日台東を過ぎる。今日中にどちらにするか決めないといけない。


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所々工事をしていて歩くスペースがない。大型が通ると壁にぴったりと張り付かないといけない。日本は基本歩行者優先だけれど、台湾は車優先なのかギリギリをぶっ飛ばしていくので、戦々恐々としながら歩く。


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昼頃まで黙々と何もない道を歩き続ける。台湾の四月は日本の真夏のような暑さ。太陽にさらされているだけで体力を奪われていく。そしてあまりの暑さに体調が悪くなる。
ルート上に金崙という街へ向かう分岐が現れる。分岐ではあるがすぐにまたルートに合流できるので、一キロも遠回りにはならない。ただ歩きだと、この一キロでさえも無駄に歩くのが嫌になる。そうは言っても、この先もしばらくは何も無さそうなのでここで昼飯にするしかない。


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金崙の街は、小ぢんまりとした温泉街だった。もし時間に余裕があれば一泊したくなるような、程よい雰囲気。こういうとこで日がな一日ぼけーっとしたい。
そうも言ってられないので、体調がある程度良くなってきたころに出発。民宿のおばちゃんが、無料の足湯があるよといってくれたけど、後ろ髪引かれる思いで先を急ぐ。距離があるとなかなかのんびりもできない。




金崙を抜けて1号線に差し掛かったとき、ちょうど前から歩いて来る人が。こんな道をザック背負って歩いてるのは、徒歩環島に決まっている。
車道を駆け渡り近寄ると、帽子にサングラス、口元もしっかり覆っている。女性だと気づく。
向こうもこちらが徒歩環島だと察したのか、日焼け対策の防具を外し挨拶。女性の歩きには初めて出会った。しかも高校を出たばかりで若い。


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取り敢えず名刺交換するように、お互いの環島の過程を報告し会う。
この子は今まで出会った徒歩環島は7人だと言う。写真を見せてもらったが一人もかぶっていない。そして面白いことに、この子が出会う人はみんな若い人ばかりで、僕は年配の人ばかりだ。若い人はいないのかと思ってたけど、たまたまなのか。




別れ際、この先は工事で道がないから凄く歩きにくかったと何度も言うので、どんなものかと思っていたら、ほんとになかった。


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白線より内側にコーンが来たらダメだと思う。


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その後も工事は至るところであり、工事がなくてもギリギリ過ぎるサディスティックな道の連続。これがまた長い。女の子が何度も忠告してくれた理由がよくわかる。




道の幅が広くなる頃には、既に精も根も尽き果てていた。トボトボと力なく歩いていると、自転車環島が何台か追い抜いていく。
二人組の自転車が少し前で止まり話しかけられる。
少し雑談して二人は先を行く。




それから一時間くらい経っただろうか、交差点の道の反対側に、二人が信号待ちしている。

「なにしてたのー?」

と叫ぶが距離があるので会話にならない。
すぐ追い付かれるのはわかっているので、また歩き出すことに。
ほどなく追い付いてきて、冷たいペットボトルの水をくれる。すぐそこの商店で買ってきてくれたものだ。


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二人が何をしてたのか聞くも、説明がよくわからない。すると携帯を取りだし、動画を見せてくれる。


(踏み切りに立つ目の前にいる男性の後ろ姿。肩には鞄を片手で担いでいる。そしてどこかかっこをつけたポーズ。踏み切りの向こう、背景には海が広がる。そしてサイレンが鳴り電車が通過する)


なんなんだこの動画はと思っていると、「桜木花道」と言っている。そしてピンときた。スラムダンクのオープニングに、たしかにこんなシーンがあった。
僕が中学生の頃、多いに流行ったスラムダンク。バスケブームは猛威をふるっていた。他のクラブに所属する男子にはいたたまれない話だが、バスケ部イコールカッコイイ、みたいな空気が校内に充満していた。
海の向こう台湾でもスラムダンクが大人気なのはしっていたが、まさかこんな場所まであるとは。


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よく見たら原付レンタル屋まで、なんの繋がりもないのにスラムダンクにあやかろうとしている。




実は僕はスラムダンクが大好きだ。バスケ部でもなく背の順も前から二番なのに、どうにかダンクはできないものかと本気で練習した。たぶんスラムダンク世代なら、誰もがフンフンフンしたはずだし、右手はそえるだけ、とか無駄に呟いたはずだ。
二人は三百メートル坂を上ればすぐに着くから、絶対に行った方がいいと強引なほど勧めてくる。しかし時間がない。まだまだ先は長いのに、時間は四時を過ぎている。これ以上遅れると三和へ着く前に日が沈んでしまう。それに三百メートルの坂も正直上りたくはない。ただ二人は溢れんばかりの情熱で勧めてくる。GPSで詳しく場所の説明を始めている。二人も同じスラムダンク世代なのかもしれないと思うと、もう行くしかない。


『骨が折れてもいい・・・歩けなくなってもいい・・・!!』

『ダンコたる決意ってのができたよ』


心境はまさにこんな感じだった。




二人と別れ必死こいて坂を上る。
すると踏み切りの周りに観光客らしき人がチラホラ。ほんとにちょっとした観光地になっている。


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観光に来ていたカップルと写真を撮る。写真を撮影してくれたお姉さんに、『ヘルメット取らないの?』と何度も言われていたが、彼は決して取らなかった。


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ドライフルーツのような食べれる花を売っていたお姉さん。次の電車の時刻を調べてくれる。動画の撮影をお願いすると、快く引き受けてくれる。
立ち位置を確認してもらい電車を待つ。
踏み切りを覗き込むと時間通り電車が。『来た来た!』とお姉さんに合図。撮影開始。
サイレンか鳴り、遮断機が降りてくる。
こんなふざけた動画を撮るだけなのに、小心者なので緊張する。そして電車が長くてソワソワする。
なんとが無事にスラムダンクオープニング風動画を撮り終え、妙な連帯感が出来た四人で喜びを分かち合う。
ただゆっくりはしていられない。すでに五時を過ぎている。
三人に別れを告げ、小走りで坂を下る。
けっきょく今日も走るのかと思いながらも、なかなか楽しかったので行ってよかった。


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そして日没直前に三和に到着。
予約したバックパッカーズは無人だった。今行くから待っててと言われるので、猫をかきかきしながら待つ。ここの猫は台湾で出会った猫史上、一番賢くて甘えん坊だ。宿の女将さんが来るまでずっと相手をしてくれる。台湾の田舎のバックパッカーズは、よく無人で電話しないといけないことがあるが、SIMを持ってなかったらどうなるのだろう。




すぐに女将さんが迎えに来てくれる。原住民の女性。陽気で優しく感じがいい。ドミトリーは一人なので、好きに使っていいらしい。
部屋の説明を終えると、三和はなにもないので、食べ物屋がある知本の方まで乗せていってくれることに。そして飯を食べたら公共の温泉へ行こうと言う。知本は温泉の街だ。
温泉は大好きだけど、昨日からハードなので眠くてしかたなかったが、疲れすぎて訳がわからない気分になっていたので行くことにした。
大好きな火鍋を食べファミリーマートで待っていると、女将さんが旦那さんを連れて迎えに来てくれる。いざ知本温泉へ。


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公共温泉は廟の中にある。


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入浴料は無料。賽銭箱があるので任意で入れたらいい。財布にある小銭の残りを入れといたが、見た限り地元の人は入れてなかった。


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この雰囲気がもう最高。タイムスリップしたかのよう。


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湯船がまた汚ならしい。いつから使ってるのか。蛇口から大量の熱湯が出てくるので、それを浴槽にかけてから湯を張る。もちろん石鹸とかはないので持参。女将さんがタオルとお風呂セットを用意してくれた。
温泉は極楽でした。



宿に帰りすぐさま就寝。慌ただしくも楽しい一日が終わる。

【台湾徒歩環島】25日目 満州港仔~尚武

40㎞オーバーの予定なので、朝五時に起きて五時半に出発。
宿のおじさんには、前日に朝早くに出発すると伝えてあったので、言われた通り鍵は差しっぱなしで、正門の脇にあるドアを勝手に出ていく。

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明け方の街を抜ける。

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小さな街なので、すぐに抜けてしまう。

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右手に太平洋を見ながら歩く。一車線の道が続くけど、ここは本当に交通量が少ない。少ないと言うかほぼない。地元の人しか通らないので、広々と歩ける。



歩き始めて一時間と少し過ぎた頃、後ろからクラクションを鳴らし近づいてくる小型のトラックが。
道の脇に避けて歩いていると、窓を明けこちらになにか叫んでいる。よく見たら宿のおじさんにおばさんだった。この先でなにかあるからたまたま通りすぎたのかと思っていたら、ビニール袋を渡される。中には果物とお菓子の詰め合わせ。起きたら僕がいなかったので、わざわざ届けに来てくれたみたいだ。
昨日おじさんには、元々六時半くらいに出発すると言ってあった。おじさんは何時でも好きな時間でいいよと言われたので、明日の距離を考え寝る前に出発時間を変更した。
こんなに早朝にわざわざ届けに来てもらって、申し訳ないことをした。
お礼を言って受けとる。今日も朝から元気をもらえる。
そして後々この食料に本当に助けられる。

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得意の目をつぶるポーズ。自分でシャッターを押しているのに、なぜつぶってしまうのか自分でもわからない。

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オヤツセットを渡し終わると、来た道を引き返していく。
僕は感無量で歩き始める。



朝飯は昨日のおばちゃんにもらったカステラみたいなお菓子だけだったので、ミニトマトを食べながら歩く。鞄にはたっぷりの野菜と果物。健康的だ。



海から逸れ山へ向かう。山越えの前に、これまた小さな街がある。

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原住民の人達の街はわかりやすい。どこも原住民感を全面に押し出している。
ここの商店で菓子パンを買って食べる。田舎の商店はなんにもなくて割高だ。店のおばちゃんは、この先ほんとになんにもないからと脅かしてくる。



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何もないが林の中にポツポツと民家が点在している。いったいどうやって暮らしているのか。
こちらに気づくと、「がんばれよ~」と応援してくれる。こんなところを歩いてるよそ者は早々いないので、徒歩旅だとわかりやすい。
原付おじさんも、「乗ってきな!」と頻繁に止まってくれる。

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中間地点に街がある。店はほとんど閉店していたけど、空いている商店もあったのでここでも補充できる。
今日は距離が長いので頑張って歩いているのもあるけど、峠を越える間に休めるようなところがなかったのでひたすら歩き、なかなかいいペース。

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と思ったら午後から雨が降りだす。

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環島1号線にもうすぐ合流。合流してからが地獄の始まりだった。



1号線の合流地点に自転車駅があるので、ここでようやく座って休憩ができる。
40㎞以上あると、頑張って歩いてもまだまだ終わりが見えないので萎える。
自転車駅は閉まっていたけど、軒先に屋根がありその辺に転がっている椅子を置いて休憩しようとしたら、どこからか犬が吠えながら駆け寄ってくる。
疲れていたのでカッパを脱ぎ無視して椅子に腰かける。
怒っているのか怯えているのか、寄っては来るが一定の距離を保ち唸っている。
昼飯がまだなので、昨日今日ともらった食べ物を広げランチにする。


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それを見た瞬間、鳴き止む。


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威嚇なんてまるでしていなかったかのように、急にいい子になり見つめてくる。


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あまりの変わり身の早さに、思わずビスケットをあげてしまう。ご満悦の様子。まったく調子のいいやつだ。


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食べ終わると姿勢を正し、この犬僕の飼い犬だったっけと勘違いするほどの礼儀正しさで次を待つ。


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そしてチラ見してくる。

この可愛さにしばらくここで休憩を楽しむ。
ただ先が長いのであまりのんびりもしてられない。もっと遊んでいたいけれど、しぶしぶ出発。犬がついてくるので、危ないから追い返す。

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目の前は一面の深い霧。自転車用のスペースもなく、ダンプや観光バスが多い。

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ビクビクしながら、少しでも早く抜けようと霧の中を小走りで駆け降りる。ここから達仁までは長い長い下りが続く。
休みなく駆け降り、五時半頃に達仁の街に到着。約12時間、予定通り40㎞ちょっとを歩き終え、あとは宿を探したらゆっくりできる、そう思って油断していたら宿が見つからない。大きくないけどそこまで小さくもない、宿があってもおかしくない規模なのに、見つけられないまま町外れへ。しかしそこで民宿の看板を見つける。指し示す方向へ向かってみると、ちょっと綺麗過ぎる民宿が。内心これは値段が高いなと思いつつも、宿の人を呼んでみる。
中から原住民の衣装を着た可愛らしいおばちゃんが。おばちゃんに値段を聞くと、自分は清掃に来ているだけでオーナーじゃないから、電話してあげるから直接聞いてみてと言われる。
なかなか電話が繋がらないので、その間部屋を見てみたりお喋りをして時間を潰す。

「これ絶対高いよ。綺麗過ぎるよ。部屋なんて清潔感ありすぎるよ」

「私が掃除してるから当然よ。いくらくらいなら泊まれそう?」

「500……くらい?」

「それはさすがに無理よ」

そんなことを話していると、折り返し電話がかかってくる。おばちゃんは隣で応援してくれているが、呆気なく撃沈。交渉失敗。
おばちゃんにどっか安いとこ知らないか聞くと、尚武というこの先の街に、凄い古い宿があった気がする、やってるかわかんないけどと言うので、GPS で調べてみる。5㎞先。行きたくはないけど、行けなくもない。

「こっかれ5㎞もあるよ……もうすぐ日が沈むし」

「大丈夫。走ったら大丈夫よ。若い人は体力あるから」

おばちゃんが笑顔で無茶苦茶言ってくる。
ここまでフルマラソンの距離歩いて来たのに、さらに5㎞も走るのかと思うと恐ろしいが、悩んでる時間もないし、おばちゃん嬉しそうだし、やったるかという気になってくる。

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可愛いおばちゃん。



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この程よく絶望的な先の見えない道を、走っては歩き走っては歩き、24時間テレビのように進んでいく。
精神的なものが肉体に影響するっていう考え方があんまり好きではないけれど、いい出会いがあると元気になれるもんだなと、最近よく思う。



なんだかんだ無事日没前に到着でき、飯、シャワー、洗濯を済ませすぐ就寝。身体はやっぱり疲れてる。

【台湾徒歩環島】24日目 満州港口~満州港仔

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朝食が豪華。朝から栄養満点で気分がいい。オーナーは出発時間も気にかけてくれる。
二人に見送られ出発。



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この日は天気がいまいち。大雨は嫌だけど、曇りの方が涼しくて断然歩きやすい。



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地図を見た感じ、一日中山の中にいるので早目に腹を満たしておく。台湾の犬は当たり前のように原付に飛び乗るから、日本人からしたら面白い。



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雨が降ったりやんだりを繰り返す。こういうときはほんとにポンチョは便利。



何もない山間の道を進んでいくと、カッパに眼鏡にマスク、小型の普通の自転車に乗った怪しいおじさんに話しかけられる。
このへんの人かなと思っていると、昨日話しかけたの覚えてる?と言われる。
歩きながら考えていると、確かに昨日墾丁を過ぎたところで「加油」と声をかけられたのを思い出した。その時も辺鄙なところを自転車で走ってるなと思ったけれど、またこんな辺鄙なところを……

「もしかして、自転車環島ですか?」

「そっちもやっぱり、歩き環島だよね?」

こんなに環島のオーラを消している人は初めてだ。ほんとに普通のそのへんを自転車で走ってるおじさんとなんにも変わらない。全然冴えない。
話す内容もまた普通のおじさんなのが面白い。
坂道なのでしばらく一緒に歩いて、下りになると普通に去っていく。写真撮ろうみたいなノリもない。
普通すぎて逆に新鮮。なんかいい。

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山と山の間をちょこっと登って抜けていくだけかなと思ったら、山頂を経由する気かと思うくらいガッツリと登る。
そして大量の猿。意外と低い鳴き声が至るところから響いてくると思ったら、常に猿に囲まれている。もうどうでもよくなるくらい多い。



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予想よりもかなり小さな街に出る。
ただこの先はしばらくなにもなさそうなので、他に選択肢はない。
村に入ってすぐ派出所があったので、ここに安く泊まれる場所はないかと聞くと、こちらを一瞥して一言「ググって」。
ここの警察は役にはたたないとわかったので、さっさと出て自分で歩いて探すことに。



歩いていると開け放ったドアの向こうで賑やかな話し声が。ドアの外だったり中だったり、台湾の年配の人はみんなで集まって、日影でずっと喋ってる。こういう昭和の光景が、日本人の郷愁を誘う。
田舎街で見慣れないやつが歩いてくるのを見つけると、みんないったん会話を止めこちらを観察。そしてこの部外者についてなにか話している様子。ここで挨拶すると、「歩いてんの?」「どっからきたん?」と会話が始まる。

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テカテカ。
近くで安い宿を探していると言うと、まあ入って入ってと和に混ぜてもらう。
写真にはいないけど、おばあちゃんとおばちゃんもいる。そして後から娘さんも来た。
おじさんが食べているケーキを頂き、食べながら質問に答えていると、僕が昼飯を食べてないことを知ったおばちゃんが、カップラーメンを作ってくれる。
休めの宿は近辺では一軒のみらしく、空いているか電話で確認してくれる。
来た道を1㎞ほど戻らないといけないので、おばちゃんがバイクで乗せていってくれることに。
出発する時に、おじさんが作った袋一杯のミニトマトと果物、カップラーメン、お菓子、ペットボトルの水を持たせてくれる。

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送ってもらい宿に着くと、おばちゃんが値段交渉までしてくれてまけてもらった。
宿のおじさんもまた親切で、すでにまけてもらってるのに「大丈夫か?お金足りるか?」と何度も聞いてくれる。全然人いないけど、会う人みんな親切だ。警察以外は。


夕飯は宿の隣の飯屋。飯屋が他にないので選択肢がない。大勢で食べるようなレストランは、一人で頼めるメニューがほとんどない。炒飯か炒麺。おばちゃんに進められるまま炒飯を頼んだら、すぐに出てきた。早すぎない?と思ったら、温くてべちゃべちゃ。確実に作り置きだ。



翌日の予定がハッキリしないが、地図を見た限り42㎞先の達仁まで大きそうな街がない。
明日は早起きして出発だ。

【台湾徒歩環島】23日目 恆春~満州港口

痒くて眠れない。また蚊だ。恆春のバックパッカーズは蚊の巣窟だった。
20~30くらい刺されたと思う。暑いのを我慢して布団を被ると、顔に集中して刺しに来る。顔がボコボコ。
余りにも眠れなさすぎて、どうせ眠れなくて蚊に刺されているだけならと、朝5時過ぎにベッドを出て六時前にはもう宿を出て歩き始めた。
宿のオーナーもそっけないし、ここにはいい思いがない。



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早朝の恆春の街。街の中に城門みたいのあるし、観光したら楽しい街なのかもしれない。なんもしてないから知らないけど。



ほとんど眠っていないので、歩き始める前からすでに体調が悪い。歩き始めると更に悪い。歩けば歩くほど悪くなる。早朝は涼しいけれど、街が目覚めると徐々に暑さも厳しくなる。



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恆春を抜け墾丁に、そして最南端の「台灣最難點」の石碑を目指す。鵝鑾鼻(ガランビ)と言う灯台がある公園の隣にある。
墾丁に入ると所々海が開けビーチがある。いかにも南国のリゾート地の雰囲気。
それにしてもビーチパラソルが多すぎる。これがすべて人で埋まると思うと、まったくのびのびできない。



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以下にも観光地だけど、海も空も綺麗で悪くない。悪いのは僕の体調だけ。



休憩を挟まないと限界だったので、ビジターセンターで一休みすることに。
まだ開いていないので、外のベンチで無心になる。
そうしているうちに職員の人が次々に出勤してきて、オープンしたので冷房の効いた室内へ。
職員用の入り口の片隅にあるベンチでロキソニンを飲んでぐったり。



しばらくしてよくなり始めた頃に、女性の職員が出勤してくる。足元には猫がすり寄り甘えた鳴き声をあげている。
猫のご飯をあげていたので、ここで飼われているのかなと思ってみていたら、噛まないから触っても大丈夫よと言うので、撫でているとすぐにグルグル喉を鳴らし始める。可愛い。

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スリスリしてきてこんなに可愛い猫なのに、職員の女性が怖いことを言う。

「この子リスを捕まえて食べちゃうのよ。鳥も捕まえて食べるけど、鳥はあんまり好きじゃないのか残しちゃう。野性的なの」

凄いなこの猫。こんなに人懐っこいのに野性的すぎる。



ビジターセンターは自然に関する映画もやってるから、ゆっくり見ていったらと言われたが、先を急ぐことにして出発。



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このいかにも観光地らしい爽やかな景色。みんなは原付をレンタルして観光しているようで、汗だくの僕を風を切って追い越していく。



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そして目指す最南端。ルートを外れてからがまた長かった。ちょっと寄り道っていう気楽さは皆無。どうにか写真を撮ってもらうも、体調不良でそれどころじゃないのを、顔が物語っている。



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暑すぎて買った椰子の実ジュース。これが絶妙に不味い。全然飲めなくはないんだけど、全然飲みたくもならない味。



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海外から観光で来てる子が乗ってかないかと声をかけてくれる。なんと親切な子だろう。



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最南端を過ぎた後はなかなかの絶景が続く。今まで歩いてきた道とはいきなり雰囲気が変わり、突然の大自然。ただ観光客が多く、観光バスが頻繁に行き来しているので、歩きやすくはない。



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休憩の時は毎回靴と靴下を脱ぐのだけれど、この時も靴下を脱いで干していたら、突然の強風に飛ばされて落ちてしまった。かなりの高さなので諦めて裸足に靴で歩く。



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港口の街はほとんど何もない小さな田舎街だった。今までと雰囲気が変わり新鮮。



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宿はオシャレ。基本サーフィンする人が泊まりにくるらしい。この日は客が僕一人なので、ドミトリーだけど貸し切り。



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宿のオーナーもスタッフの子も気さくで親切。
街には食事できる場所がたぶん一軒しかなく、この日二人はちょうど墾丁の街で用事があるというので、街まで乗せていってくれることに。
ついさっき一日かけて歩いてきた道を、車であっという間に引き返す。
街の中心で下ろしてもらい、七時に待ち合わせる。
夕飯は牛肉面を食べたけど、墾丁は外国人が多い観光地だからか、物価が高い。飯はどれも1.5倍くらいする。
雰囲気は好きだけど、長居はしにくい街。

七時に回収してもらい宿に帰る。
田舎大好きな田舎育ちのオーナーは、年が近いし田舎者同士だからか親近感が湧く。飾らない感じがいい。



やっぱり体調がいまいちで疲れていたのか、布団で横になっていたらいつの間にか眠っていた。

【台湾徒歩環島】22日目 枋山~恆春

枋山のバックパッカーズは七時から朝食が出るので、それに合わせて起き共同スペースへ行く。

先客は二人。そのうちの一人、おじさんをよく見ると、シャツの背中に徒歩環島のプリント。大きなザックには二種類の旗と、環島のプレート。
見間違いようのない徒歩環島だ。昨日に続きこれで三人目。意外と歩いている人が多いのかもしれない。
一緒に朝食を食べ記念撮影。

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最近異様に黒い……
僕は準備がまだなので、おじさんが先に出発。向かう方向は一緒。また後で会うことになるだろう。



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海沿いの道。眺めは最高だけど、日陰がなくて暑い。そして海を挟んで遥か彼方に、ぼんやり見える中継地点の街。遠い。



枋山から南下すると、次の車城という街の手前までほぼ何もない。
景色も特に変わらないし、日陰もない。人もいないのでひたすら歩く以外ない。



歩き続けているといつの間にか太陽が真上に来ている。暑さも最高潮に達する。



「ちょっと休んでいきなよ。この先何もないから」

どこからか声が聞こえた。
こんな人気のないところでなんだと、声のする方を見ると、道路から外れた並木の木陰、靴を脱ぎ気持ち良さそうに木の根本にもたれ掛かるおじさんが。
まるで一枚の絵のように目に飛び込んでくる光景。
歩いてそちらへ向かいながらも、内心嬉しくてたまらなかった。
寝転がるおじさんを見て何がそんなに嬉しいのかと思うだろうけど、おじさんの姿は徒歩環島というよりも完全に旅慣れたハイカーだった。
山をやってる、歩くのが大好きな人の姿。なんていうか無理なく楽しそう。



「なんで歩いてるの?」

環島を始めてたくさんの人に出会い、何度も何度もされる質問。徒歩の人に出会うことは少ないけれど、自転車の人にはたくさん出会った。みんなそれぞれ色んな理由がある。凄くたくさんの立派な理由がある。

「好きだから」

僕はいつもそう答える。バカみたいだけど、本当にそれだけ。
歩くことも台湾も大好きだから。
好きじゃないことをやるときは理由がいるけど、好きなことにはいらない。

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おじさんと木の根本で靴を脱ぎ色んな話をする。最高に楽しい。台湾に来て一番興奮したかもしれない。
おじさんは逆回りで台中で環島が終わる。後少し。この先の情報を聞くと、手帳をめくる。これまでの行程の詳細がしっかり書き込まれている。そして僕の残り時間を考慮したうえで数パターンを勧めてくれる。地図を見て色んな計画をたてるのが大好きなのを見て、やっぱり山好きそうだなあと内心でにやける。おじさんの靴下モンベルだし。
装備について聞かれると、そこから山の話になる。内心『やっぱりか!』と思いながら聞いていたら、思った以上に本気で山をやっていて驚いた。海外の山の名前が出てくる。
僕が台湾の山にも登ってみたいと言うと、台湾の山なら案内できるからと、電話番号とLINEを交換する。
そんなに休憩していたつもりはないけれど、いつの間にか二時前。僕は昼飯がまだなのもあり、そろそろ出発するかということに。
この日、僕はおじさんが来た街の恆春へ、おじさんは僕が来た街の枋山へ向かう。

この後の僕は始終ご機嫌で、ペースもいい。



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原付のおじさんが冷たいジュースをくれる。まるで配っているかのようにさりげなく渡して去っていく。写真を撮る隙もない。その場で飲み干す。嬉しくて美味しい。



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恆春の街に着いた後、宿に荷物を置き出掛けると、目の前の広場で屯しているおじいちゃんに絡まれる。
おじいちゃん78歳。とにかく口が悪い。口癖は「アタマコンクリ」。日本統治時代を知っている。おじいちゃんが5歳の時に日本が敗戦したらしい。


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台湾の火鍋。一人なのに米が二膳あるのは、僕が食いしん坊だからではなく、火鍋を注文すると米がついてくることを忘れて注文してしまったからだ。
台湾の火鍋は、庶民的な味で最高に美味い。



こんな感じで22日目終わり。